子どもたちの健やかな成長を願って
交野に移り住んでから40年近くになります。大学に職を得て大阪に来てから45年ほど経つので、その大半を交野市民として暮らしてきたことになります。
大学では、教育方法学という分野の研究と教育に勤しんできましたが、退職後の現在もいつ終わるともいえない研究を続けています。教育方法学は、学校で何を(内容)どのように教育したらよいか(方法)を研究する教育の最前線に位置する研究分野であり、机上の観念論議に終始しない実践との結合が求められるため、子どもの実態と教師の指導の実際を観察し学校・教師たちと共同するように努めてきました。25年前に日本を離れハンブルク大学で一年間にわたって研究生活をおくり、その後も毎年のようにドイツに赴いていますが、その場合でも実践との対話はいつも心がけてきました。
そのためもあってか、交野教育子育てネットワーク(「子育てネット」)の結成にさいして代表を仰せつかりました。「子育てネット」は、交野の子どもたちの健やかな成長を願って、市民、保護者、子育てや教育にかかわる各種団体(交野学童保育連絡協議会、新婦人の会交野支部、おおさかパルコープ、交野市教職員組合、交野市職員労働組合、交野うたう会、交野演奏家クラブ「音夢の会」、交野母親大会連絡会、SAKU-らーにんぐ等)からなる、1998年に結成された緩やかな組織です。この27年の間、山田洋次監督の講演などに代表される子育てに関する講演会、キッズコンサート、高校生と語る会、教育懇談会、平和をテーマにした映画会を開催したり、子育てアンケートを実施してきました。ごく最近では、コロナ禍によって中止を余儀なくされた映画会に代わって、もっと子どもの参加型アクティビティを大切にするという趣旨から植物観察会を春に実施しました。次いで秋(11月16日)も実施する予定です。また、教育講演会も1月31日に開催予定です。必ずしも華々しくはありませんが、交野に暮らす子どもたちの笑顔がみられるように、今後も多くの知恵を集めて着実に活動していきたいと思います。
教育実践の現実を目の当たりにすればするほど、そこに社会的諸矛盾の反映が具体的にみえてきます。とくに1980年代中頃から企てられてきた学校・教師・子どもの間の個性化競争と道徳的同一性の強制という二つの柱が、今日では様々な教育的装いを凝らして浸透してきています。そのぶん、子どもの「生きづらさ」は募るばかりです。また、最近では、コロナ禍によって加速された教育のデジタル化が子どもの成長・発達を歪めると危ぶまれています。だかこそ、逆に子どもを守る取り組みが今以上に多様・多層に展開される必要を感じています。
「パンドラの箱(瓶)」という有名なギリシャ神話があります。神々を創り出した神であるゼウスがパンドラに開けてはいけないと手渡した箱をパンドラが開けた途端、中からおびただしい禍が逃げだし、世界の隅々まで拡散したが、箱の底にただ一つの希望は残ったという神話です。これになぞらえれば、子育てと教育の世界に広く浸透してきている様々な禍のなかにある希望は何かを私たちが共同して見つけ出し、それを実現していかなくてはならないのではないかと思っています。「子育てネット」もその一助になるよう努めますので、どうぞご協力のほどお願いいたします。
久田敏彦
- 星田山手在住
- 大阪教育大学名誉教授
- 日本教育方法学会理事
- 交野教育子育てネットワーク代表など


コメント